アマゾン自然科学博物館 閉館の辞

誠に遺憾ながら、2011年4月2日をもってアマゾン自然科学博物館を休館する。

1988年6月22日にブラジル移民80周年を記念して、秋篠宮殿下やアマゾナス州知事をお迎えしてオープンした当博物館であるが、力尽きたのである。

翌日の4月3日にはワシも66才になるので、ちょうど良い潮時である。

今日までの約23年の間、博物館には約200ト ンの水槽が併設され、2メートル50センチ、150キロ以上のピラルクを常時2匹飼育していた。一時、4匹いた時もあったが、飼育経費が掛かりすぎるので、入館者の減少に伴い2匹に戻したのである。

経費が掛かりすぎると云うと、大抵の人はエサ代と思われるが、実はそうではないのである。訪館者に喜んで見て頂くため には1日2回循環する水槽の水の透明度を8メートルに保たねばならないのである。

ご存知のように、ピラルクにエサをやると糞等を排泄する。大部分は水槽外に出るようになっているが、残った排泄物を栄養分にして植物プランクトンや藻が水槽内に発生し て、水を緑色に濁らすのである。そのため、動物プランクトンが増えるよう応援して、それらを捕食させるのであるが、4匹のピラルクの排泄物の残滓によって増える植物プランクトンを、動物プランクトンが 捕食しきれないのである。

そのため、2匹のピラルクであれば、年に2回の掃除と3、4回の水換えで十分であるが、4匹にすると年に4回の掃除と毎月の水換えが必要になる。技術的には6匹の飼育も可能 であるが、年に6回の掃除と年に20回近い水換えが必要になるのである。

清掃は洗剤等を使えないので、 4、5人の若者がデッキブラシで、5時間掛けて藻を掃除する人力作戦である。

産業革命以前の人類は20億に満たなかったのであるが、今や70億 に達しよとうとしている。昨今の環境問題はつまるとこ ろ地球環境の汚染を掃除する経費を誰が負担するのかということである。これって水槽のピラルクの飼育と同じ原理ではありますまいか?

水槽の2匹のピラルクは、閉館後、水族館の屋根を壊して、クレーン車で吊り上げて取り出して、博物館の池でゆっくりと老後を過ごして頂くことにしているが、ワシは当分ゆっくりと老後を迎えることは出来そうにない。

目下のところ、再開の見通しはたっていないが、数年後に再開されるとしたら、ワシの手を離れ第三者にゆだねることになろう。故に現実には休館であるが、 ワシにとっては閉館なのである。

長い間のご愛顧、ご声援、誠 に有り難う御座いました。

2011年2月29日

アマゾン・ナチュラリスト協会代表   橋本 捷治

博物館主館全景

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